Q.遺言


Aが死亡し、その相続が開始した場合に関する次の記述のうち、⺠法の規定及び判例に照らし、正しいものはどれか。
1 Aが自筆証書遺言を作成した後、死亡した場合において、当該遺言に、パソコンで作成した目録が添付されていたときは、自筆証書遺言は遺言者が全文を自書しなければならないとされているから、当該遺言は当然に無効となる。
2 Aが買主の詐欺により不動産を売り渡したが、売買契約を取り消す前にAが死亡した場合、その相続人であるBは、当該売買契約を取り消すことができない。
3 Aが死亡し、その子であるB、C及びDが各々3分の1ずつの持分でAが所有していた甲建物の所有権を相続したが、相続開始後、Dが甲建物を1人で占有し、B、Cに利用させようとしない場合、B及びCは、持分を侵害されていることを理由に、Dに対して当然に甲建物の明渡しを請求することができる。
4 Aが自己の所有する乙土地につき、Aの子であるBのために地上権を設定し、その地上権にCのための抵当権が設定されている場合において、Aが死亡し、乙土地をBが相続したときでも、地上権は消滅しない。
5 Aが死亡し、その兄であるBがAを単独で相続した場合において、Aがすべての財産をXに遺贈する旨の遺言を作成していたときは、Bは、Xに対して遺留分侵害額請求をすることができる。

1 誤 り 遺言は、遺言者の意思を明確にするため、その方式が厳格に定められているところ、自筆証書遺言については、⺠法968条1項が、「自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。」と規定している。もっとも、同条2項前段は、「自筆証書にこれと一体のものとして相続財産……の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。」と規定している。この同条2項の規定は、遺言の全文の自書は相当な負担になる場合があるため、2018年の相続法の改正により、新たに設けられたものである。したがって、本肢のAの遺言は当然に無効となるわけではない。

2 誤 り 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する(⺠法896条本文)。ここにいう一切の権利義務には、被相続人の取消権も含まれる(同法120条2項)。

3 誤 り 判例は、共同相続に基づく共有者の1人であって、その持分の価格が共有物の価格の過半数に満たない者(少数持分権者)は、他の共有者の協議を経ないで当然に共有物を単独で占有する権利を有するものでないが、他方、他のすべての相続人は、その共有持分を合計するとその価格が共有物の価格の過半数を超えるからといって、共有物を現に占有する少数持分権者に対し、当然にその明渡しを請求することができるものではないとした(最判昭41.5.19)。このような場合、少数持分権者は自己の持分によって共有物を使用収益する権利を有し、これに基づいて共有物を占有するものと認められるからである。

4 正しい 同一物について所有権及び他の物権が同一人に帰属したときは、当該他の物権は、混同により消滅する(⺠法179条1項本文)。もっとも、その物又は当該他の物権が第三者の権利の目的であるときは、当該他の物権は消滅しない(同項ただし書)。本記述においては、「他の物権」である地上権が第三者であるCのための抵当権の目的となっているため、地上権は消滅しない。 5 誤 り 兄弟姉妹は、遺留分を有しない(⺠法1042条1項柱書参照)。したがって、本肢において、Aの兄であるBは、遺留分侵害額請求権(同法1046条1項)を行使することはできない。

以上により、正しいものは肢4であり、正解は4となる。


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