1人1台時代を切り拓くAIロボット開発最前線


帰宅すると家事をすべてこなす人型ロボットが出迎えてくれる──そんな未来を予感させる技術革新が今、ロボット開発の現場で進んでいる。鍵を握るのは、人間の動きをAIに学習させる手法である。本稿では、その最前線を取材した内容を紹介する。

動画が衝撃を与えた洗濯物折りたたみロボット

2024年10月、ある米国ベンチャー企業が公開した動画が業界を驚かせた。二本の腕を持つ人型ロボットが、乾燥機から取り出した衣類を種類ごとに見分け、手際よくたたむ様子は、まさに人間さながらである。さらに、ボウルに盛られた卵をつぶさずに割り取り、パックに収納するデリケートな動作も披露された。従来のプログラミングでは困難とされた、柔軟かつ繊細な動きの実現であった。

プログラミングからAIへ──発想の転換

従来の産業用ロボットは人間が細部までプログラムした通りに動く仕組みだった。しかし、生成AIの核技術「ディープラーニング」によって、人間の動きをデータとして学習し、自律的に動作するAIロボットの開発が始まったのである。この手法により、布の形状変化や卵の取り扱いといった、環境や素材の特性に応じた臨機応変な動作が可能となった。

産総研「ALOHA」が拓く学習プラットフォーム

産業技術総合研究所(産総研)では「ALOHA(アロハ)」と名付けたロボットアーム群を使い、データ収集を行っている。研究室には8台の装置が並び、オペレーターが専用コントローラーを操作すると、ロボットアームが連動して動く仕組みである。端末にはカメラやセンサーが装備され、動作データと映像を同時に収集する。たとえばタオル折りたたみ作業では100回前後のデモンストレーションを通じ、AIに動作パターンを学習させる。これを工具の把持や結索(ロープ結び)など100種類以上の作業に応用し、汎用性の高いAIロボット開発を目指している。

米中の激しい開発競争と日本の立ち位置

米国と中国では多額の予算と人員を投入したデータ収集が進み、競争が激化している。米国企業は24時間・3交代制でオペレーターを募集し、中国上海では100台以上の専用ロボットがデータ取得に従事中で、2027年までに1000台体制を構築する計画を打ち出している。

一方、日本でも2025年3月、「一般社団法人 AIロボット協会」が設立された。大手自動車メーカーや電機メーカーが参画し、ロボット動作データの共有基盤を構築することで、国内外の参入障壁を低減し、汎用ロボット実現の土台を築こうという取り組みである。

ヒューマノイド開発の新潮流──WABOT-1からAIRECへ

人型ロボット“ヒューマノイド”は、生活環境に最適化された形状ゆえに、家事・介護の現場での活用が期待される。1973年に世界初の人型ロボット「WABOT-1」を開発した早稲田大学では、研究室内にキッチンや浴室、寝室を模した生活空間を再現し、新型ヒューマノイド「AIREC(アイレック)」の実証実験を進めている。

AIRECは、顔部にカメラを、柔らかなシリコン製の手のひらに触覚センサーを搭載し、介護現場での起き上がり支援や靴下の着脱補助など、人間の体に直接触れる作業をデータ駆動でこなす。これらの動作には、高精度なセンサー情報と大量の学習データが不可欠であり、経験に基づく“微細な動き”をAIにどう伝承するかが研究の鍵となっている。

2050年へ向けたムーンショット型研究

早稲田大学尾形哲也教授は、政府のムーンショット型研究開発制度に参画し、「2050年までに1人1台の人型ロボットと共生する時代」を目指している。まずは福祉施設やホテルなど公共空間への導入を想定し、日本が持つ産業用ロボット開発の経験と新たなAI学習手法を融合させることで、世界トップクラスの汎用AIロボットを国際競争力に変えようとしている。

以上が、未来の“家事ロボット”実現に向けた最新動向である。人間の繊細な動きをどこまでAIが学習し、実践するか。これからの技術革新に期待が高まる。


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