5月に入り、学校では学業や部活動が本格化している。冬から春にかけて高校スポーツの全国大会が多くの競技で行われ、海外からの留学生が活躍する場面も多かった。一方で「留学」の在留資格で入国しているにも関わらず、けがが発端となって学校をやめざるを得なくなったり、帰国を余儀なくされた留学生もいる。志を抱いて来日しながら、学校生活を全うできなかった未成年の若者たち。背景には、異国で学ぶ留学生を守る法整備などの支援体制が弱く、対応が学校任せの現状がある。
2020年12月、エチオピア出身の元陸上部員の女性が、日弁連に人権救済を申し立てた。神奈川県の私立高陸上部で、入部後に起きた足のけがが原因で学校側から退部処分とされ通学を続けられなくなった、とする内容だった。元陸上部員は21年3月に同高を除籍となった。
国、学校法人、仲介会社とその代表の4者を相手方とした申立書によると、元陸上部員は15歳だった19年4月、日本の仲介会社の紹介で単身来日。学費や生活費、食費を学校側が負担し、月2万円の「月給」を受け取る特待生として入学した。だが足の痛みが出て治療のため8月にいったん帰国。すると、高校から連絡先として指定された仲介会社代表に元部員側から連絡をしても応答がなくなった。さらに陸上部監督が本人の了承なく退学手続きを進めようとしていた。 同年11月に再来日し、難民支援団体の援助で弁護士が入って学校側と交渉。一度は退部処分と、寮の利用や「月給」を含む特待生待遇の取り消しを告げられたが、後に学費免除は認められた。しかし退部処分は変わらず。20年12月の申し立て時点で、寮に住めないうえに生活費などを自力で賄うことが難しく、通学できない状態となったとしている。 高校は京都新聞社の取材に対し、退部処分は認め「帰国中に連絡がなかったため。(学校側からも)仲介会社代表を通して連絡を取ろうとしたが取れなかった」と説明。「退学処分にはしていない。監督から退学になると思うと申し出はあったが保留した」とした。また「ADR(裁判外紛争解決手続き)を経て、寮費、学費とも免除で卒業させると提案した。本人が断った」とした。
元陸上部員の代理人、鈴木雅子弁護士は「彼女は不信感・恐怖心から学校に戻ることはできないと考えた。日本では保護者のいない子どもを入管(出入国在留管理庁)が簡単に入国させて不安定な状態に置き、学校が追い出すことが可能な仕組みになっている。留学あっせん業者に対しても監督・規制がされていない」と指摘する。母国の内戦で両親が行方不明となった元陸上部員は現在、日本に滞在して難民申請し、支援団体のサポートを受けて審査を待ちつつ別の学校で勉強を続けている。
同弁護士は難民申請者をはじめとした外国人の人権問題にも取り組んでおり、「(外国人留学生の問題との共通点として)日本では外国人を『外の人』と捉え、社会の構成員と見なさず使い捨てることも国全体が容認している。それが(これらの問題に)表れているのだと感じる」と指摘する。