日本有数の金融機関である農林中央金庫(農林中金)は、総資産約100兆円を有し、そのうち50兆円以上を市場で運用しています。しかし、運用に失敗し、2025年3月期には1兆5000億円にのぼる最終赤字を計上する可能性があることが明らかになりました。この巨額損失の原因を探るため、農林水産省は有識者会議を設置し、検証を開始しました。
農林中金は、リーマンショック後、リスクの高い金融商品を避け、安定的な運用を目指して外国債券に資金をシフトしました。しかし、近年の金利上昇により、以前に購入した低金利の債券の価値が大幅に下落。売却のタイミングを逃したこともあり、2023年6月末時点で債券の含み損は2兆3000億円に達しました。過去のリーマンショック時の赤字額を上回る損失を抱えることとなったのです。
このような運用失敗の背景には、農林中金のガバナンス構造が影響しています。資産運用の意思決定機関である理事会は内部の執行役員のみで構成されており、外部の監視や意見が取り入れられていないことが問題視されています。今回の検証では、このガバナンス体制の見直しが焦点となる見込みです。
また、農林中金のもう一つの課題は、農業分野への融資の少なさです。総資産に対する農業部門への貸付金はわずか0.1%に過ぎず、資産の多くが有価証券に偏っています。農業法人や大規模農業者からの融資ニーズが高まっている中で、この不均衡が問題として浮上してきました。
農林中金は、過去にもリーマンショック時に5000億円を超える赤字を計上し、1兆9000億円の資本増強を行った経緯がありますが、今回はそれを上回る赤字が見込まれています。各農協からの資金援助を受けてきましたが、経営が厳しい農協が今後も支援を続けられるかは不透明です。
農林中金の再建には、ガバナンス改革と資産運用方針の見直し、そして農業融資への積極的な対応が求められています。農林水産省の検証結果とともに、農林中金がどのような新たなビジネスモデルを構築するかに注目が集まっています。