1. 英語コミュニケーション能力の定義
文科省懇談会による「『英語が使える日本人』の育成のための戦略構想」(2002, 2003年)は、日本人に求められる英語力として、次のような到達目標を示した。
国民全体においては、中学校・高等学校を卒業したら英語でコミュニケーションができる。中学校卒業段階では、挨拶や応対、身近な暮らしに関わる話題などについて平易なコミュニケーションができる(卒業者の平均が英検3級程度)を想定した。また、高等学校卒業段階では、日常的な話題について通常のコミュニケーションができる(卒業者の平均が英検準2級~2級程度)そして、大学を卒業したら英語が使える。
そして、この到達目標を改定すべく、「外国語能力の向上に関する検討会」は「求められる英語力」を次のように示した。(2011年)
円滑にコミュニケーションを図ることができる能力とは、例えば異なる国や文化の人々と臆せず積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度や、相手の文化的・社会的背景を踏まえた上で、相手の意図や考えを的確に理解し、自分らの考えに理由や根拠を付け加えて、理論的に説明したり、議論の中で反論したり相手を説得したりできる能力としている。
これらから、英語コミュニケーション能力とは、各発達段階に応じた英語力において、異なる文化圏の人々と積極的にコミュニケーションを図り、相手の文化を理解したり、根拠や理由の基づいた理論的で建設的な議論をしたり、相互やり取りできる能力と定義できる。
2. 英語コミュニケーション能力を向上させる授業
コミュニケーション能力を育成するためには、生徒に発表する機会を多く与え、発表することに慣れさせること、意味のあるやり取りを通して英語を使うことの意味や楽しさを味わわせることが第一歩である。次に、段階的に発展する生徒の発達段階や学習段階にふさわしい活動に取り組ませ、活動をやり遂げる達成感や満足感を体験させる。そして、より高い発信力を身につけさせるために、伝達目標や伝達場面を考えて話したり、書いたりする指導を計画的に行うことが大切である。
このような英語コミュニケーション能力を向上させるための授業はどのようなものであるかを考える。つまり、「発達段階に応じた英語であること、生徒が英語でやり取りを行う、相手文化の理解を促すこと」これらを包括的かつ体系的に学ぶことができる指導計画が必要である。そこで、「外国語能力の向上に関する検討会」は、学習指導要領に基づき生徒に求められる英語力の到達目標として「CAN-DOリスト」の形で具体的に設定することを提案している。
ただし、CAN-DOリストを設定する上での留意点がある。教室内での活動を中心としたcan-doリストであることが望ましい。can-doはできるだけ具体的に記述することが望ましい。例えば、中学校1年生can-doやりとり項目には「基本的な語句や表現を使って自己紹介や家族紹介、趣味、スポーツなど身近な個人的な話題や日常生活について、指導者の支援があればある程度やりとりすることができる」、話すこと項目には「基本的な語彙や表現を使って、自己紹介、家族紹介、趣味、スポーツなどの身近な個人的な話題や日常生活に関する話題について、状況やジェスチャー、イラストなどをヒントに尋ねたり答えたりすることができる」というような具体的な記述がされると良い。このようにやることリストが明確であれば、その目標に向かいどのような授業計画必要かが明確になり、コミュニケーション能力について、他の項目に埋もれずに授業ができると考える。
次に、この目標を達成するために必要な指導について考える。まず、教師が英語を通して、生徒が英語にふれ、音や語彙を学ぶ機会が不可欠である。学習者の英語学習への意欲を高め英語を使う時間であることを自覚されるためにも、授業開始時のオーラルイントロダクションによる教科書本文の導入は積極的に取り入れたい指導である。次に、教科書の利活用が重要である。教科書は、生徒にとって身近な話題の会話文や文章が多くある。そして、文法の効率的な指導順序そして発達段階に合わせた語彙選択がなされている。その教科書をコミュニケーション能力向上のために活用することが教師の力量と思われる。生徒に教科書を音読させるときには、英語特有のリズムやイントネーション、また音の連結などを意識されるような指導を心がけ英語の音に近づけるような指導をしたい。この音読指導には、靜氏の「ぐるぐる」や正頭氏「バズリーディング」が提唱する有効であると考える。バズリーディングであるが、クラス全体に口々に音読をさせる方法である。全体で合わせることはせず、教師は机間巡視によって発音チェックを行い、各々の生徒の発音を確認してゆく。または、生徒同士で1行ごと読み合わせによる、相互発音学習と教師による発音確認を行っても英語の音読向上に効果的である。発音はr, l, f, v, thなどを中心に指導をしてゆくと英語の音に近づくことができるというものである。
そして、本時に学んだ内容について、教師が生徒に話しかけ、それに答えるというコミュニケーションにつなげる。または、生徒がスピーチをできるような内容の指導につなげる。教科書の文法内容と重要例文が過去形であれば、My story(写真をスライドに表示し楽しかった、大変だったなどの思い出を語る)という内容の指導計画が考えられる。取り組みの前に教師が手本や例を示し、生徒が取り組みやすいようにするために、テーマに関する語彙や文法を再度紹介する。他にも、生徒がやりとりをできるような寸劇「簡単な道案内、客室乗務員とお客さん」などもスピーチの内容に変えることができると考える。最後に、自身の取り組みについて自己評価と相互評価が可能なシートを用紙しその振り返りを行うことによって、自身の成長を感じ自信をつけ、次の学習への意欲につなげていきたい。
3. おわりに
コミュニケーション能力を向上させるために、授業において、積極的に英語コミュニケーションを最終目標として、それにつなげてゆくための授業を考えた。オーラルイントロダクション、教科書音読活用、スピーチや寸劇などのコミュニケーション活動という流れで、コミュニケーション活動のために、必要な文法や語彙をその都度指導してゆくというような形である。生徒のコミュニケーションを中心に据え生徒が自信をもって英語コミュニケーションに望むための手助けが教師の役割であるといえるような内容であるかもしれない。教師が一方的に話しかけ、解説を続けるような授業が求められなくなったということは、再現性が少なく、生き物のような授業が展開させる可能性があり不安でもあると同時に、教師が機械的な役割ではなく、経験と研究により授業力を磨き生徒と変化を共にする楽しみがあるとも思った。
参考文献
樋口忠彦ら (2012)『英語授業改善への提言』教育出版
正頭英和 (2015)『音読指導アイデアBOOK』明治図書