
大型連休中に外国為替市場で異例の急変動が発生した。発端は台湾ドル相場の急騰であり、5月2日から週明け(5月5日)にかけて約8%もの変動幅を記録した。この動きは、仮に円が同率でドルに対して上昇すれば、1ドル=145円(5月9日現在)が134円前後まで円高が進行する計算となる。
台湾ドル急騰の背景には、トランプ政権による「ドル安志向」観測と、米中関係の関税交渉が影響したとの憶測がある。台湾の頼清徳総統も中央銀行総裁も「為替交渉は行っていない」と強調し、両トップが異例の火消しに回った。
振り返ると日本でも同様の構図が見られる。トランプ政権が為替を問題視し、円高容認を求めるのではないかとの観測から、先月の外国為替市場では円買いが急加速した。さらに、物価上昇や賃上げ期待を背景に日銀の早期利上げ観測も重なり、円買いポジションは4月29日時点で17万枚余に達した(CFTC「IMM通貨先物ポジション」)。
IMM通貨先物のデータは2月以降13週連続で円の買い越しを示し、直近4週は過去最高を更新。1ドル=155円台だった2月上旬から円高が徐々に進行し、4月22日には139円台に達した。かつては161円台まで円安が進んでいた売り越し局面の反動と言える。
今後の為替動向を占うには、二つのシナリオが対立する。
- 円安シナリオ:加藤財務大臣と米ベッセント財務長官の会談後、市場にはドル高是正の要求がなかったことが明らかになり、思惑のガス抜きが進んだ。また、5月1日の金融政策決定会合で日銀が追加利上げ観測を後退させたことも追い風となり、円安が優勢となる可能性がある。
- 円高シナリオ:トランプ政権が関税交渉のカードとして再び「ドル安志向」をちらつかせる恐れや、相互関税発動による米経済への悪影響からドル売りが強まるリスクが残る。さらに、トランプ大統領とFRBの対立激化がトリプル安(ドル安・株安・債券安)を招く可能性もある。
三井住友銀行の鈴木浩史チーフ為替ストラテジストは「政策の不確実性次第で投機筋のポジションは変動しうる」と指摘し、尾河眞樹ソニーFGチーフアナリストは「市場の判断材料は関税交渉、FRB動向、政権支持率など多岐にわたる」と分析する。
“円高マグマ”は膨張を続けるのか、それとも巻き戻しが始まるのか。小さな変動が巨大なうねりに発展するリスクに、当面は警戒を怠れない。