肥満症に苦しむ患者は少なくない。遺伝や生活習慣など複数の要因が絡み合うにもかかわらず、「自己管理の問題」とみなされる偏見が根強く、適切な治療機会を阻んでいる側面がある。そのような中、国内で新たな肥満症治療薬の販売が開始され、医療関係者の間には期待の声が上がっている。
◇国内2800万人が肥満
肥満は体格指数(BMI)が25以上を指す。一方で「肥満症」はBMI25以上かつ、2型糖尿病や高血圧といった11種の合併症のいずれかを伴う場合を指し、治療対象となる。世界の肥満人口は約25億人、国内では約2800万人に達すると推計される。特に中高年層での増加が顕著だ。
◇肥満関連疾患と死亡リスクの上昇
肥満に伴う虚血性心疾患、脳血管障害、慢性腎臓病などの罹患率も上昇傾向にある。BMIが30以上40未満の群では、標準体形者と比較して男性の死亡リスクが1.36倍、女性は1.37倍に高まるとの調査報告がある。
◇「自己責任」意識の弊害
肥満症には遺伝的要因、環境、心理社会的背景、食習慣など多面的要因が存在する。ところが職場や教育現場、さらには医療現場においても「自己管理不足」という意識が根強い。こうした差別や偏見は「オベシティ・スティグマ」と称され、患者自身や周囲の理解を妨げる要因となっている。
◇意識調査が示す厳しい現実
日本イーライリリーと田辺三菱製薬が実施した調査によれば、肥満症患者の87%、医師の64%、一般生活者の70%が「肥満は本人の責任」と回答した。特に患者では約63%が「100%本人の責任」とするなど、自己責任論が根強いことが浮き彫りとなっている。
◇医療相談の障壁
医療機関で体重について気軽に相談できたかを尋ねると、医師・患者ともに約半数が「できなかった」と回答した。医師の47%は「患者が相談を恥ずかしがるから」、患者の45%は「体重管理は医師の仕事ではなく本人の責任」と答えている。ほかにも「自己管理不足と否定されるのが怖い」「相談は無意味と感じる」などの声があった。
◇治療の必要性と保険適用へのためらい
治療の必要性については、患者の78%、医師の87%、一般生活者の69%が「必要」と認めた。一方で、保険適用による積極的治療には一般生活者の半数近くが「好ましくない」か「どちらともいえない」と回答しており、経済的支援への理解にはまだ隔たりがある。
◇海外データが示す対話の重要性
海外の研究では、体重や肥満に悩み始めてから医療従事者に相談するまでの中央値は約3年に及ぶ。相談しない理由として「自己管理の問題」とみなす意識が挙がる一方、医療従事者が積極的に関与すると減量へのモチベーションが約2.3倍に向上するとの報告もある。オベシティ・スティグマは、適切な治療機会を奪うリスクがあるため、医療現場と社会全体で偏見を取り除き、早期の対話と支援体制構築が求められる。