日本では、かつて当たり前とされていた結婚や出産が、経済的な要因で遠ざかっている現状が見られます。今年上半期の出生数は過去最少の35万人に達し、少子化の進行が顕著です。その背景には、若者世代の経済的困難が大きく影響しています。
29歳の古川将さんは、福岡県出身で都内のメーカーで経理として働いています。彼は「結婚は高級品」と感じており、今は一人暮らしをするのがやっとです。福岡県出身の古川さんは大学卒業後、名古屋で学習塾に就職しましたが、月収は20万円程度で、手取りはわずか15万円。生活の厳しさから退職し、より高収入を求めて東京に移住しましたが、状況は大きく改善されず、奨学金の返済も重荷となっています。現在は正社員として月収27万円、手取り22万円となりましたが、結婚はまだ現実的ではなく、将来的な優先順位も低いと考えています。
古川さんのように、賃金の低さが結婚や出産を遠ざける要因として指摘されています。日本総合研究所の藤波匠上席主任研究員によれば、バブル崩壊後の金融危機や企業の賃金抑制が、若者世代の実質賃金の低下を招きました。60歳前後の世代と現在30代の世代を比較すると、実質賃金に約100万円もの差が生じており、この賃金格差が結婚や出産への意欲を削いでいるといいます。
また、昨年11月に結婚した新婚夫婦の例も示されています。フリーランスのカメラマンである夫と会社員の妻は、結婚後も経済的な不安に直面しています。夫の収入は取引先の経済状況に左右され、安定していません。また、仕事に必要な機材や駐車場代などの固定費もかさみ、生活に余裕がありません。結婚式も挙げておらず、子どもを持つことにも経済的な不安を感じています。
こうした状況は、経済的な理由で結婚や出産を諦める若者が増えている現実を反映しています。東京商工会議所が行った調査によれば、18歳から34歳の若者の74%が「経済的な不安」を子どもを持つハードルと感じています。また、賃上げが進まないため、結婚や出産を諦めるという声も多く、減税や保育料の補助などの支援策を求める意見が寄せられています。
少子化問題の専門家である藤波匠氏は、2030年までに出生数を増やすためには、若者が将来に希望を持てるような経済環境の整備が必要だと強調しています。企業が人材への投資を増やし、政府がそのための環境を整えることが重要です。
今回の取材を通じて、若者たちが結婚や出産に対して抱く不安が深刻であることが明らかになりました。これまで当たり前とされていた未来予想図を描くことが難しくなっている現実は、少子高齢化の進行に歯止めをかけるために、今こそ社会全体で取り組むべき課題であると感じられます。