未婚化
「未婚化」は結婚をしないという現象である。2015(平成27)年の平均初婚年齢は、夫31.1歳、妻29.4歳となっており、年々増加していたが、上げ止まりの傾向にある[1]。
しかし、各種の意識調査によると、男女共に、始めから「ずっと結婚しない」と決めている人は少ない。積極的に「未婚」「シングル」を選択する人が多いわけではない。
では、なぜ「結婚をしない」という選択にいたるのであろうか。「結婚をしない」という選択にいたる1つの要因として、「結婚規範」つまり「結婚をしなければならない」という強制力が働かなくなってきた事が考えられる。
かつて、日本社会では「結婚」は、家と家との結びつきであり、家存続のための機能であった。現在では、恋愛結婚の主流となり、結婚相手を親が決めることは主流ではなくなり、本人が配偶者を選択するようになった。「家と家との結びつき」という側面は弱体化した。しかし、結婚し、子どもをもつという、行為自体が、「家」規範と関連するものであり、「家の存続」に寄与してきた。そして、1990年代からは老夫婦のみの世帯が増加している。つまり、子ども夫婦との同居は減少している。この時期は実質的に、「家」の衰退が始まり、「夫婦家族」化の始まり、「家規範」が衰退した時期であった。現在、日本社会は「家」にまつわる家族規範が衰退しきっている。そして、それに代わる家族規範は確立していない。その結果が、「未婚化」の進行とも考えられる。このような家族状況は、家族の多様化、個人化した家族と言う者もいる(目黒 1987)。
経済的な要因もあるが、経済的要因のみを考えると、途上国や日本の近代化時期において「未婚化」していない事に矛盾が生じる。「未婚化」と「家規範の変化」とは相関が考えられる。
晩婚化
「晩婚化」は結婚を遅らせるという現象である。未婚化については、家規範の観点から考えたが、晩婚化については別の視点から考えたい。主に、①「男女の結婚相手に求める条件の階層間のミスマッチ」と②「高学歴化・就業による女性の経済的自立性の獲得とそれにともなう人生の選択肢の多様化」についてから検討したい。
1980年代以降、女性の生き方には様々な選択が増えた。結婚せずに仕事でのキャリアを積んでゆく女性、結婚を遅らせる女性、結婚しても出産しない女性、子どもが生まれても就業を継続する女性などライフスタイルは男性以上に多様化した。
国立社会保障・人口問題研究所は18~34歳の独身者に「独身にとどまっている理由」を調査した。18~24歳の若い年齢層では「まだ若すぎる」「仕事(学業)にうちこみたい」「まだ必要性を感じない」など、「結婚しない」理由が多く選ばれている[2]。
そして、現在の平均初婚年齢である25~34歳の層では「適当な相手にめぐり会わない」という理由が最も多くなっている。ただ、この年齢に至っても「まだ必要性を感じない」や「自由さや気楽さを失いたくない」という理由も多く、とくに「自由さや気楽さを失いたくない」は、若い年齢層よりも多く選ばれている[3]。
この調査は、たしかに①「男女の結婚相手に求める条件の階層間のミスマッチ」と②「高学歴化・就業による女性の経済的自立性の獲得とそれにともなう人生の選択肢の多様化」を裏付けるものとなっている。未婚化の原因である、家族規範の弱体化が包括的な原因として同様に考えることもできる内容ではあるが、家族規範がライフスタイルの変化に対応できなくなったことも原因であると考えられる。また、独身男女の多くがパラサイト・シングル化しており、また結婚の意味が変わって、男女の結びつきの形態が多様化していることも遠因として考えられる。
出生児数の減少
1980年代以降の「少子化」の直接的原因は「未婚化・晩婚化」にあると言われてきた。しかし、1990年代以降は、これに加えて「既婚夫婦の出生率の低下」も少子化に影響を与え始めた。
晩婚・晩産が止まれば、産み戻しによって出生率はいくらか回復する。ただし、出生の先延ばしによって受胎確率の低い年齢に突入するために起きる出産逸失は発生する、それに加え、出産意欲の減退によって夫婦出生力が低下する影響が現れている。
女性の就労率の増加は、保育所の増設、保育時間の延長、夜間保育、病児保育など公共的かつ専門的サービスの必要性を拡大させてきた。ただし、行政サービスは平等一律のサービスを提供する性質のものであり、個々の必要に迅速、柔軟に対応してくれるというものではない。保育所への入所希望は少子化にも関わらず増大している。2016年には「保育園落ちた日本死ね!」というブログが国会にも取り上げられ、SNS上において、「#保育園落ちたの私だ」という投稿する運動につながった[4]。
もし、行政サービス以外の専門サービスを利用しようとしても、対価が高価であることが難点である。小さな子どももつ家庭は、若い世代が多く、経済的な負担を担いきれないのである。
行政サービス以外の、地域社会に根ざしたボランティアやNGOなどを制度整備した上で利用できようにする。少子化を今後の行政サービスの崩壊につながる危機と判断し平等一律の原則を排してでも、予算規模を拡大し、取り組むなどの対応が求められる。
参考文献
森岡 清志 (2008)『地域の社会学』 有斐閣アルマ
国立社会保障・人口問題研究所 (2015)「第15回出生動向基本調査」
厚生労働省 (2016) 「人口動態統計」
「デジタル朝日新聞」
[1] 厚生労働省 2016(平成28)年 「人口動態統計」
[2] 国立社会保障・人口問題研究所「第15回出生動向基本調査」 (2015) 18~24歳
[3] 国立社会保障・人口問題研究所「第15回出生動向基本調査」 (2015) 25~34歳
[4] 2016年3月4日 朝日新聞デジタル「「保育園落ちた日本死ね!」 匿名ブロガーに記者接触」