新型コロナ感染症と学校間教育格差
2020年2月27日に、新型コロナウイルス感染症の拡大防止のために、全国の小中高校及び特別支援学校の臨時休校措置が政府から要請がなされ、休校となった。そして、今年度は各教育機関と各家庭がそれぞれに教育を提供するために知恵を振り絞り対応することになった。このことは、教育格差を目立たせることになった。
ある都立高校は4-5月にわたって休校になった。この学校に通う高校3年生で受験を控えた男子生徒は、授業がない事への不安を語った。学校からは英語や国語、数学、理科など各教科の課題が出され、提出期限はあるものの、授業は一切なかった。男子生徒は学習の成果が上がっていないのではないかと疑問を投げかけた。
公立高校の校長は、オンラインによる授業も検討したが、現状は厳しいと語った。理由は、パソコンやスマートフォンが普及して通信環境が整備されたといえど、すべての生徒が持っているわけではないからである。
教育関係者は進学校では高校2年の段階で、多くの教科において受験範囲の勉強が終わっており、自ら学習する素地ができており、休校などの影響はないと語った。
私立の灘高校では、ゴールデンウィーク明けから授業動画や音声付きのプレゼンテーション資料をインターネット上に公開しオンライン対応がいち早くなされた。授業の進み具合について教頭は7-8割の学習内容は達成できたとみていて、大きな遅れにはならなないと語る。[1]
公立高校、進学校、私立高校によって、休校時の対応や、その時の学習について大きな差が発生した。オンライン授業にいち早く対応できたのは、オンライン環境が全員に整えることができる家計の基盤を持った名門私立学校であった。そして、家庭が教育資本を投下して、学習習慣が身につけさせ、先取り学習をさせることができる層も影響が少ないとされた。しかし、公立学校においては、各家庭の状況もありオンライン環境がすぐには整備されなかった。そして授業の機会が失われることになった。
オンライン教育実施と家庭環境
オンライン環境さえ整えば、良いのであれば、オンライン環境の整備が難しい家庭に支援し整備すれば良いといえば、そこまで単純な話ではない。そもそも、現実にはこの支援さえままならない。オンライン教育の実施も家計の経済状況の影響を受けると考えられる。
Bacher-Hicks(2020)[2]やChetty(2020)[3]などの研究では、米国において地域所得とインターネット普及率には明確な相関関係があると指摘されている。そして、両親による情操的援助、インターネット環境、パソコン保有率や学習場所等、遠隔教育に必要な要素は両親の学歴と家計に大きく依存する。また、静謐な学習部屋、居住に耐える住居が確保されているかどうか、学校給食の他に十分な食事を得られるかどうかも所得に依存する。休校中の子供の学習環境に格差が生ずることが懸念されている。
オンライン環境の教育においても、家庭の影響が生じる。確かに、家庭環境が良く学習環境が整備されないといくらオンライン教育がなされたとしても、その効果を十分に引き出せないのは確かである。
あるソーシャルワーカーは「保護者が休業や失業で仕事を失い、夫が妻に暴力をふるうなど、家庭が安全安心な場ではない。そのしわ寄せが子どもに来ている。休校中にゲーム漬けになったり昼夜逆転したり、リストカットしたり」と語り、従来の格差や貧困をコロナがあぶりだし、増幅した形であるとした。[4]
教育支援の必要性
学校教育は各家庭の環境が原因となる学力格差是正効果を持っている。そして、休校などによりその機能が十分に働かなくなることは問題である。休校期間中におけるオンライン教育についても、インターネット環境や在宅学習環境の問題など取り組むべき課題は多い。新型コロナウイルス感染症が引き起こす景気悪化で、非正規雇用者に比較的大きな影響を及ぼしている、そうした家庭の子どもの学力への影響も大きくなり、学力格差を助長する可能性があると考えられる。そして、生じてしまった学力格差の是正のために、コロナ感染症収束後も包括的かつ継続的な教育支援が必要である。教育支援としては、このコロナ感染症時代によって失われた学習環境を補うための学び直しの機会を提供することが考えられる。さらに、ソーシャルワーカーを含め、困難な家庭の支援も急務である。そして、その教育支援を通して、家計格差が再生産されることを防ぐ必要がある。
参考文献
植上 一希、寺崎 里水 (2018)『わかる・役立つ 教育学入門』大月書店
髙橋 済、高橋 尚吾(2020)『コロナショックと 教育・経済格差についての考察』財務総合政策研究所
「朝日新聞」
[1] 2020年6月26日「朝日新聞」朝刊18面 (参照)
[2] 学校・家庭でオンライン教材の利用格差が存在
[3] オンライン教材の達成率が低所得地域家計で後退
[4] 2020年12月25日「朝日新聞」朝刊22面(参照)