福島県いわき市にある温泉リゾート施設「スパリゾートハワイアンズ」を運営する常磐興産が、アメリカの投資ファンド「フォートレス・インベストメント・グループ」に買収される見通しとなり、大きな注目を集めています。この買収は、フォートレスが持つ経営ノウハウや資金力を活用し、施設の集客力を強化することを目的としています。施設のブランドや雇用は維持される方針であり、地域経済や観光業への影響が期待される一方で、経営環境の変化に対応するための課題も浮き彫りになっています。
この買収は、9月9日に常磐興産が発表しました。同社は、フォートレスからの買収提案を受けて同日開催された取締役会で提案に賛同することを決定しました。フォートレスは今後、TOB(株式の公開買い付け)を実施し、来年3月頃に常磐興産を完全子会社化した上で、同社の上場を廃止する方針を示しています。フォートレスは、施設のブランドや従業員の雇用を維持しつつ、事業の強化を図る予定です。
常磐興産は、かつて石炭を採掘していた「磐城炭礦」が源流となり、炭鉱閉鎖後に新たな産業として観光に注目しました。そして1966年、「常磐ハワイアンセンター」(現在のスパリゾートハワイアンズ)を開業し、東北地方の観光資源として重要な役割を果たしてきました。特に首都圏からのファミリー層を中心に多くの観光客を引きつけ、2006年に公開された映画「フラガール」の舞台としても全国的な知名度を誇っています。
常磐興産はコロナ禍で一時的に業績が悪化しましたが、2023年3月までの1年間で業績は回復し、最終利益は9億3400万円の黒字を計上しました。観光部門の営業利益も過去最高を記録し、日帰り利用者は93万人、宿泊利用者は37万人に達しました。しかし、今後は人口減少や施設の老朽化といった課題が懸念されています。特に、主な客層である首都圏のファミリー層の減少が、将来的な収益に影響を与える可能性が高く、経営環境の変化に対応するための大規模な設備投資が求められています。
しかし、常磐興産の財務状況は厳しく、3月時点で有利子負債が300億円近くに達しており、財務の健全化が課題となっていました。今年6月に就任した関根一志社長は、経営会見で借入金の削減を進める考えを示しており、財務改善に向けた取り組みが進められています。
フォートレスは、日本国内でも多くのリゾート施設やホテルを運営しており、宮崎市の大型リゾート施設「シーガイア」の運営会社を買収するなど、レジャー産業への投資を積極的に行っています。常磐興産は、フォートレスが持つ豊富な経営ノウハウと顧客基盤を活用し、スパリゾートハワイアンズの集客力をさらに高めることを目指しています。特に、施設の老朽化や人口減少に伴う課題に対応するために、フォートレスの資金力を利用した大規模な設備投資が期待されています。
常磐興産が直面する課題は少なくありませんが、フォートレスの支援を受けることで、スパリゾートハワイアンズが再び成長軌道に乗ることが期待されます。この買収により、地域経済の活性化や観光産業の発展が促進される一方で、地元住民や従業員にとっては、今後の変化がどのように影響するかが注目されています。