「方向性」と「多細胞生物」
細胞が集まり、それぞれの細胞が役割分担をした生物が多細胞生物である。多細胞生物が誕生すると機能の発現を円滑にすすめるために細胞の並び方に規則性そして方向性が必要になる。
35億年前に原核生物が誕生した。その後、原核生物が地球上唯一の生物であった。しかし、真核生物誕生後、生命の多様化が進み、多細胞生物が誕生した。多細胞生物の始まりを原生生物が細胞分裂を繰り返していたときに、偶然細胞同士が離れなかったことがきっかけだったと考えることもできる。
多細胞生物では、塊になった細胞同士が明確な相互関係を持ち、塊として振る舞うために細胞の役割が特殊化している。細胞が集まり、それぞれの細胞が役割分担をすると、機能を円滑に進めるために細胞の並び方に規則性が必要になり、多細胞生物には機能的に方向性が生じたと考えられる。
エディアカラ生物群の生物は、真核細胞が集まり細胞集合体として存在しているだけでなく、個体として前後軸などの体軸を引くことができ、細胞が個体の中でそれぞれの役割を担う多細胞生物が存在した。
「骨格」「移動」と「多細胞生物」
真核生物が多細胞生物になり運転性を持つようになると、前後軸という体軸が形成された。生物は堅い骨格を備えた結果、運送の速度が高まった。
古生代の始めカンブリア紀になると運動性の高い多細胞生物が誕生し、個体間で「食う食われる」という食物連鎖が発生した。筋肉をもった多細胞生物は骨格を備えることで、速く動くことが切るようになった。カンブリア紀の生物界が喧噪の世界になった原因は骨格の出現によるものだと考えられる。
「単細胞生物」と「多細胞生物」
原核細胞と真核細胞の区別は、核のあるなしであり、原核細胞には核様体と呼ばれる遺伝情報を司る核酸が集まった所があり、真核細胞には核と呼ばれる二重の脂質二重膜からなる核膜に囲まれた核酸が集まった所がある。原核生物は元々1つの原核細胞からなる単細胞生物である。単細胞生物は全生活史を通して単一または群体を形成する細胞である。ただし、真核生物にも単一の真核細胞からなる単細胞生物もいる。単細胞性真核生物は、単独で生活し、時に群体を形成するが細胞の塊が組織や器官などに形態的・機能的に特殊化したものに変化することはない。対して、多細胞生物の場合、発生過程で、細胞塊がそれぞれの場所で特殊化して胚を形成する。
「体液」と「多細胞生物」
多細胞生物は、ヘモグロビンやヘモシアニンといった呼吸色素を体液としていて酸素運搬能力は水に比べて100倍高い。これにより、体液量を減少させることができ、循環されるためのエネルギーを大幅に減少させることが可能になっている。単細胞生物であれば、直接細胞の外側からエネルギーのもととなる物質を吸収することができる。しかし、多細胞生物では、物質を取り入れる仕組みが必要になる。つまり、個体中に消化器官を作り、取り入れた生物個体の一部を一度分解して体液に分散し、細胞外の組織液を通して吸収するという手間が必要になる。
「外界」と「多細胞生物」
すべての多細胞動物は消化器官を持っている。食物連鎖の中で、餌として生物個体の一部が消化器に入り、物質は栄養として吸収できる形に分解され、体の細胞の中でエネルギーや構造物になる。多細胞生物は、細胞それぞれが分業しより効率的に外界に働きかけ栄養を摂取できるようになった。そして、カンブリア紀に入って外骨格や内骨格などの堅い素材を使うようになった。堅い素材と筋肉系の結びつきにより非常に高い移動能を獲得することができるようになった。「食う食われる」の関係が日常になると。多細胞生物は外界の情報を取り入れ、その情報をできるだけ的確に処理し、移動方向を決定できて個体が生き残るようになった。
多細胞生物のセンサー部は感覚器官と呼ばれる。感覚器官は感覚を受容する器官で上皮細胞が分化したものである。普段意識することはないが、平衡覚や自己受容器のおかげで転倒することなく歩いたり走ったりすることができる。動物は多くの感覚器官によって行動が達成されている。行動は「感覚器官→情報処理器→効果器」という流れで決定する。この流れを1つの情報処理システムと考えると、感覚器官で受容された外界からの情報が感覚器官と情報処理器によって修飾されて効果器で出力されると考えられる。このような情報処理システムは、生物が生き残る確率を上げつつ進化の中で改良を重ねて変化してきたものである。環境変化を受容し反応できる能力を獲得して能力を利用し多細胞生物が様々な工夫がなした。その工夫のきっかけは①「体軸の形成による方向決定」②「感覚器官と能の前方集中」③「体の一部が堅くなることによる移動速度向上とその速度に対応できる神経系の複雑化を伴う情報処理の速度向上」であると考えられる。
参考書籍
針山 孝彦『生き物たちの情報戦略―生存をかけた静かなる戦い』化学同人, 2007年