地域と家庭の教育力について


地域の教育力の現状

 地域の教育力は制限されることが多かった。日本の教育行政の仕組みは、戦前ほどではないが、自治体レベルの関与より国家レベルからの関与が強い特徴がある。教科書や教育指導要領は文部科学省によって全国一律に統制されてきた。したがって、教育内容や求められる能力も全国一律のものが多い。その結果、成績がよい子どもほど上級学校に進み地域から離れていく傾向が強い。日本の地方自治体は自らの地域に貢献する優秀な人材を自ら育成する権限を持たないのである。

 そして、地域側は、自分の子どもを自分と同じ地元の小規模自営業者や労働者として誇りを持って育てる気はなかった。産業構造や収益格差から、子どもはできば東京の大学を出て大企業に勤める方が良いと考えて来た。跡継ぎに対して「商店街の子どもは成績があまり良くない方が良いのです」という皮肉が聞かれる。つまり、成績が良いと跡継ぎにはならないのである。

 教育は戦後、教育制度改革によって、地域や地方自治体がボトムアップ的に担うように制度化された。もし、地域が独自で共通試験の科目や教育内容に左右されない、地元の産業構造とその発展のための教育を行っていたならば、首都圏一極集中の現状は変わっていたかもしれない。しかし、経済成長とそれに伴う均質な労働力と基本能力を備えた人材育成を産業界も親も求めた。そして、国の統一教育課程に対応するための教育がなされることが望まれ、それを実行し続けた。高等学校教育において、多科目を必要とする大学入試共通試験に対応できる普通科や科目が選択できる総合学科の学生数は増加し、専門教育を行う学科の学生数は減少し続けている[1]

結果として、高度経済成長を支え、全国的な大企業は繁栄を得て、その利益システムに乗ることができる人とそこから外れ地域の中の経済にとどまり続けなければならない人の格差を生み出すことになった[2]

 そして、労働人口を集めた都市郊外地域においては、子どもが成人し、他出し始めると、少子高齢化が進み、次世代を再生産することが困難になってきた。

 労働人口を送り出して来た地域も労働人口を吸収した郊外地域も次世代を育てる力がなくなるということになった。こうなると共倒れである。

 その共倒れを回避し、一極集中を抑えるためには、地域の教育力の回復とその地域に即した人材を育て、その地域で利益を出す企業を育てることが必要だ。そして、その企業や組織が成長した場合には、その地域から管理機能や本部機能を首都圏に移させないように、さらに高度人材を育て続けることを後押しする必要がある。教育、研究、産業育成が連携できる総合的な計画と実行が求められる。

家庭の教育力の現状

 核家族化や地域社会のつながりの希薄化等を背景として、子育ての悩みや不安を抱えたまま保護者が孤立してしまうなど、家庭教育が困難な現状が指摘されている。その現状に対して、自民党が成立を目指し2016年に公表した家庭教育のあり方に関する法案「家庭教育支援法案」が注目を集めた。各家庭の教育について法制化することが適するとは思えないが、家庭教育力の低下を憂いる議員や団体そして有権者が数多く存在していることは確かである。

第二条 家庭教育は、父母その他の保護者の第一義的責任において、父母その他の保護者が子に生活のために必要な習慣を身に付けさせるとともに、自立心を育成し、心身の調和のとれた発達を図るよう努めることにより、行われるものとする。

 この内容は法律としては、何が自立心なのか心身の調和なのか分かりにくく余計なお世話であるが、明文化しなければ、ならない程度に家庭の教育力が疲弊しているという状況であるのかもしれない。ひとり親家庭の増加や貧困など、家庭教育を行う上で困難な条件がいくつも指摘されている今日の社会は、家庭教育を行うことが困難な社会と言うことができる。

 誰がどこまで支援するかに対しては、このようになっている。

4 家庭教育支援は、国、地方公共団体、学校、保育所、地域住民、事業者その他の関係者の連携の下に、社会全体における取組として行われなければならない。

 家庭教育に公共機関や他人が入る事を許してよいのかという議論も生じてくる内容である。

 家庭教育については、初めて親になり、周りから支援も受けられない状況であると初めてと困難の連続である。行政の側から、特定の家庭教育を強制することはあってはならないが、家庭側から要請があった場合には、支援者につなぐ役割ができると制度として良いと考える。

参考文献

森岡 清志 (2008)『地域の社会学』 有斐閣アルマ

厚生労働省「賃金構造基本統計調査」

文部科学省「学校基本統計」


[1] 文部科学省「学校基本統計」2019(平成31)年

[2] 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」2018(平成30)年


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