北京オリンピックの開催は中国では自国の発展の証として報じられた。日本では、北京の大気汚染がオリンピックに与える影響を心配する報道もなされた。急速な成長を続ける中国では、十分な環境対策が取られておらず、北京はスモッグに覆われることが常態化していた。産業発展中の国が、スモッグなどの公害問題に苦しむことはよく発生する。産業革命期にはロンドン、日本でも東京オリンピックを開催した1960年代は公害問題の深刻化に直面した。しかしながら、人口13億の国家の経済発展に伴う公害問題はその規模は過去に経験がない規模である。
中国内陸部の砂漠で巻き上げられた砂が偏西風に乗り春先に日本に飛来する黄砂という現象がある。中国の上空を飛んでいる間に、中国国内の工場等から排出される大気汚染物質を取り込み、黄砂が一緒に運んでくる。これが健康被害を及ぼしているのではと懸念されるようになった。1970年代に多発していた光化学スモッグが、現在でも日本の多くの地域で発生するようになった。私が住む北九州市も2016年に7年ぶりに光化学スモッグ注意報が発令された[1]。国立環境研究所は九州の光化学スモッグの原因物質ついて40~45%が中国起源であると結論付けた。
各企業は利益の追求のために汚染に対して対価を払う気はなく、環境を考慮することはない。このような姿勢に対して、政府は環境対策を企業に求める。民主主義国家においては国民の声は反映されやすいが、共産党体制においては国民の声が政治にすぐ反映されるとも限らない。さらに、国境を超える公害問題の対策の難しさは、国境を超えるという事そのものにある。環境という公共財の場合は、政府が税金を集めその平等な供給を実現しようとする。強制力を用いフリーライダーの発生を防いでいる。しかし、国境を超え外部不経済を発生させる場合、強制力を行使して問題解決にあたることは困難である。中国からもたらされる大気汚染は中国政府が規制をしてくれない限りその被害を受ける日本のような他国はその発生を規制することはできない。国際社会においては環境問題や公害問題に対して強制力を行使できる主体が存在しないのである。
これらの問題に対して、国家を介さない民間同士の「トランスナショナル」な関係も増大してきている。日本では叩かれることもあったが、環境活動家のグレタ氏が注目を集め、若い世代が環境問題の解決を各国政府に迫るということも発生した。日本においても学校を休み温室効果ガス削減を訴える高校生が現れた[2]。環境も整い個人での発信もしやすくなり、環境問題などの世界的規模で国家を超えた政治が必要な分野において、デジタルネイティブ世代の活躍は注目をし、自身も発信をするなどして協力ができれば考える。
[1] 2016年5月31日『朝日新聞』光化学スモッグ、博多など注意報 北九州は7年ぶり /福岡県
[2] 2021年4月19日『朝日新聞』(気候危機)動く、グレタさんのように 学校休み、温室ガス削減訴え