1. 小学校教育の法と制度
1872(明治5)年、学制発布以降、小学校は全ての国民が就学する初等教育機関として位置づけられた。しかし、翌年1873(明治6)年の就学率は男子39.9%女子15.1%であった。その5年後1878(明治11)年でも男子57.6%女子23.5%にとどまった。1886(明治19)年には第1次小学校令が制定され、父母・後見人は児童を尋常小学校(6~9歳)4年間就学させるように義務付けた。1900(明治33)年に、第3次小学校令が交付され、尋常小学校の授業料を徴収しないことが定められた。1907(明治40)年に、尋常小学校の修業年限が2年延長され6年となり、就学率は男女平均97%を超えた。
戦後、教育に関する事項は全て法律により制定されるようになった。戦前は教育に関する事項が、天皇の大権事項とされ勅令主義が取らており大きな変化であった。そして、日本国憲法制定の翌年1847(昭和22)年に、教育基本法と学校教育法が制定され、戦後教育制度が整備された。
近年では、2011(平成23)年には義務教育標準法が改正され、小学校第1学年の学級編制標準が40人から35人に縮小された。そして、新学習指導要領において「社会に開かれた教育課程」の実現が求められ、アクティブ・ラーニング、外国語の充実、教員以外の専門スタッフの充実、地域人材との連携・協働が求められるようになった。
2. 中学校教育の法と制度
明治中期まで、大学に接続する準備期間としての中学校と初等教育の締めくくりとしての小学校高等科が制度的に重なっていた。明治後期には、高等教育の基礎・準備段階が「中等教育制度」として独立化した。戦前、今日の中学校にあたる段階には、高等教育学校への準備、高度な初等教育、女子教育や実業教育の基礎など様々な役割が与えられていた。
戦後、1947(昭和22)年、学校教育法の制定により、修業年限3年の新制中学校が誕生し9年間の義務教育制度が発足した。「第1次米国教育使節団報告書」1946(昭和21)年において、戦前の複雑な学校制度を単一化し、普通教育と職業教育を共に提供し、無償かつ義務教育の中等学校を提言し、この報告書は新制中学校発足に大きな影響を与えた。
2021年全面実施の新学習指導要領は、「主体的・対話的で深い学び」(アクティブ・ラーニング)の重視、カリキュラム・マネージメントの導入、道徳を「特別の教科道徳」としての新たに位置づけるなどの改革がなされる。
3. 高等学校教育の法と制度
現在の高等学校にあたる学校種は、旧制中学校、高等女学校、実業学校であった。中学校・高等女学校は高等普通教育のみを実業学校では実業教育のみを行うという実質的な分岐型学校体系を許すものであった。
戦後、新制高等学校という1つの学校種に統一し、分岐型学校体系から単線型学校体系へと変化した。1947(昭和22)年に公布された学校教育法において新制高等学校の目的は「中学校における教育の基礎の上に、心身の発達に応じて、高等普通教育及び専門教育を施すこと」と定められた。
高等学校の教育課程は、学校教育法において「文部科学大臣が定める」とし、文部科学大臣は学校教育法施行規則を定めた。学校教育施行規則第84条は「教育課程の基準として文部科大臣が別に公示する高等学校学習指導要領による」としている。学習指導要領は全国的な教育水準の維持を図るため、学校種別に定められており、約10年ごとに改訂されている。
現在、高等学校進学率は98.8%に達しており、高等学校教育は準義務教育となっている。国際人権A規約には中等教育における無償教育の漸進的な導入が規定されており、高校無償化は世界的な潮流となりつつあり、2010年「公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律」が制定され、返済不要の高等学校等就学支援金制度が導入された。
4. 幼児期の教育の法と制度
2006(平成18)年に教育基本法が改正されたときに、「幼児期の教育は生涯にわたる人格形成の基礎を培う重要なものであることをかんがみ、国及び地方自治体は、幼児の健やかな成長に資する良好な環境の整備その他適当な方法によって、その振興に務めなければならない」とした。
幼児期の教育は主に、文部科学省所管の幼稚園と厚生労働省所管の保育所によってなされてきた。幼稚園は学校教育法に定める「学校」の一種であるが、保育所は児童福祉法に定められる児童福祉施設である。幼稚園の目的は教育基本法22条において「幼稚園は、義務教育及びその後の教育の基礎を培うものとして、幼児を保育し、幼児の健やかな成長のために適当な環境を与えて、その心身の発達を助長することを目的とする」とあると定められる。保育所の目的は、児童福祉法39条において、「保育を必要とする乳児・幼児を日々保護者の下から通わせて保育を行うこと」と定められている。幼稚園と保育所は幼児の「保育」という点では一致しているが、幼稚園が学校であるのに対して、保育所が児童福祉施設であるため、機能に差がある。「幼稚園 / 保育所」で対象が「満3歳~小学校就学 / 乳児~小学校就学」、学級編制が「同一年齢 / 規定なし」、1日の時間が「4時間標準 / 8時間原則」であるなどの差がある。
2006年「認定こども園」の制度が創設され、幼稚園と保育所のうち、教育および保育を一体的に提供する施設ができた。2012(平成24)年、子ども・子育て支援新制度として法改正がなされ。幼保連携型の認定こども園は、学校であると同時に社会福祉施設であり、両方の性格をもつものと明示され、その基準の所管は内閣府となった。
5. 特別支援教育の法と制度
2007(平成29)年、学校教育法改正により、視覚・聴覚・身体障碍者に対する特殊教育から、LD(学習障碍)、ADHD(注意欠陥多動性障碍)、高機能自閉症などの障碍種別を受け入れることができる特別支援教育制度に転換がなされた。「障害者の権利に関する条約」に則り、共生社会の形成に向けたインクルーシブ(包括)教育システム構築のため、特別支援教育が推進されることになった。障碍がある者が”general education system”(一般教育制度)から排除されないこと、自己の生活する地域において初等中等教育の機会が与えられること、個人に必要な「合理的配慮」が提供されることが必要とされている。
2016年には障害者差別解消法が施行され、「不当な差別的取り扱い」と国の行政機関・地方公共団体等での「合理的配慮の不提供」を禁止した。学校にも適応され、入学希望者に対して、必要な改善について配慮がなされず、障碍に対応する環境が整っていない事を理由に入学を認めないことは、この法律に違反することになった。
2015年の特別支援学校高等部の就職率は28.8%となっており、ハローワークとの連携、卒業後のアフターフォローを行う就職支援コーディネーターの配置などを含めた指導と支援の充実が図られる必要がある。
参考文献
藤井 穂高 編 (2018)『教育の法と制度』ミネルヴァ書房