中等教育の目的は何か
教育基本法の改正にともない、2007年(H.19)に、教育三法の改定が提言された。新学校教育法45条には中学校教育の目的が「中学校は、小学校における教育基盤の上に、心身の発達に応じて、義務教育として行われる普通教育を施すことを目的とする」と規定させている。中学校の目標には、職業についての基礎的な知識と技能、勤労を重んずる態度及び個性に応じて将来の進路を選択する能力を養うこと」が加えられた。つまり、日本の中等教育は、一般的・基礎的な教育を行いながら、職業に関連する知識や技能や態度を育成していくことが求められるようになった。
中等教育の基調をなす教育とは本質的にいかなるものか
教育(Education, Erziehung)という言葉の語源は、親が子を育てるという営みであり、そもそもは、胎児を引き出し養うことを意味していた。人間は自然的存在として自己に内在する自然法則にしたがって発達する。しかし、人間の発達は外部からの援助があって初めてその発展は成し遂げられる。これが、発達援助を本質する教育である。
それだけではなく、教育とは文化伝達をも基調としている。人間の能力は単に内部から発展するものではない、人間の能力の発展には文化の介在が必要であり、人間は文化の中でこそ発達できるとする。この思想は文化教育学として発展した。文化教育学パウルゼン(Paulsen, F. 1846-1908)は文化と教育の不可分性について次のように述べる。「教育とは、先立つ世代から後に続く世代への理念的文化財の伝達である」[1]その後の文化教育学は、文化とは、ただ伝達されるだけでなく、さらなる文化性の発展や人間の覚醒をも含むとするようになった。
中等教育の目的と教育の本質論
ドイツの教育学者ヘルバルト(Herbart, J.F 1776-1841)は、教育は目的意識的な行為でなければならないと主張し、科学的教育学を確立しようとした。ヘルバルトの考える科学の条件は1つの原理に基づいて知識が体系化されることである。教育方法や教育技術を体系化しようとし、その原理を教育目的(道徳的品性の陶冶)に求めた。合理的体系化された発達援助によって、一般教養教育なそうとする主張である。その目的に、道徳的品性の陶冶を掲げた点は面白いところである。
道徳とは文化による、文化によって道徳が作られるとも言える。文化と道徳とは相互に影響する。新教育基本法の教育の目的に、人格や道徳の陶冶についてはあまり触れられてはいない。しかし、現実の教育においては、道徳に関わる問題が存在している。いじめなどの教育の問題、そして、どう生きるのか、これら問に答えるには、長期間の哲学的な営みが必要になる。
一般基礎的な教養、職業技能態度を合理的に育成することは、たしかに重要である。しかし、その基調には、文化が存在し、一般基礎的な教養、職業技能態度を育成するための原動力となっているとも言える。この両輪のバランスを取ることが、中等教育には求められていると考察する。
参考文献
佐々木 正治(2019)『新中等教育原理』福村出版
[1] Paulsen, F. , Pädagogik, Stuttgart, 1911.