近年、世界的にRTD(Ready To Drink)市場が急速に拡大しています。RTDとは「ふたを開けてすぐ飲めるアルコール飲料」を指し、日本では缶チューハイなどがその代表例です。この市場の成長は、消費者の志向やライフスタイルの変化に大きく影響されています。本稿では、世界のRTD市場の現状とその背景、さらに日本におけるRTD市場の状況について詳しく探ります。
1. 世界的なRTD市場の急拡大
RTD市場は、特にアメリカを中心に急成長を遂げています。2018年から2023年の間に、世界全体で小売金額ベースで2.2倍、アメリカでは3.3倍以上に市場が拡大しました。この成長率はアルコール飲料市場全体の中でも特に高く、注目されています。アメリカ市場でのRTDの年平均成長率は18%に達しており、特に若年層の消費者に支持されています。
2. アメリカにおけるRTD人気の要因
アメリカでのRTD人気の要因は、主に以下の三つに分けられます。
2.1 健康志向の高まり
アメリカの消費者の間で健康志向が高まり、低アルコール、低カロリー、低糖の商品が人気を集めています。RTDは、ワインやカクテルよりもアルコール度数が低く、消費者が求める健康的な選択肢となっています。大手酒類メーカー「E&Jガロ」は、本格的なウォッカを使用したグルテンフリーのRTDを販売し、健康に配慮した商品の提供を強調しています。
2.2 さまざまな味のバリエーション
RTDは多様なフルーツフレーバーを取り入れており、若い世代の新しいもの好きな消費者にアピールしています。ラズベリー、ピーチ、グレープフルーツ、パイナップルなど、さまざまな味が提供されており、パッケージデザインもSNS映えを意識して斬新なものが採用されています。このような「インスタ映え」する商品は、SNSを活用する若者の心を捉えやすいとされています。
2.3 手ごろな価格
価格の手ごろさもRTD人気の一因です。アメリカでは、インフレによる物価上昇が続く中で、消費者はより安価な選択肢を求めています。RTDは、ビールやワインと比較して低価格で提供されており、1本あたり約1.4ドルという手頃な価格が、若年層を中心に支持を集めています。
3. 日本のRTD市場の動向
日本においてもRTD市場は成長を続けています。2018年から2023年にかけて、日本のRTD市場は1.5倍に拡大しました。特に新型コロナウイルス感染症の影響で「家飲み」が増えたことが、RTDの需要拡大に寄与しています。アメリカと同様、味の多様さや価格の手ごろさが消費者に支持されています。
3.1 ビール市場の縮小とRTDの台頭
日本ではビール市場の縮小が続いています。ビール、発泡酒、第3のビールを合わせたビール系飲料のピークは1994年度(平成6年度)であり、その後じわじわと減少し、2023年度(令和5年度)にはピーク時から約4割減少しました。このビール離れが進む中で、RTDが代わりに消費者の選択肢として浮上してきました。
3.2 ノンアルコール市場の拡大
健康志向の高まりとともに、日本でもノンアルコール飲料の市場が拡大しています。2023年には、10年前の1.4倍以上に成長したと推定されています。ノンアルコールビールやノンアルコールの缶チューハイ、ハイボール、ワインなど、さまざまな商品が登場しており、消費者の多様なニーズに応えています。
4. 日本企業のアメリカ市場への参入
成長するアメリカのRTD市場には、日本の飲料メーカーも参入しています。2024年2月からは、日本の大手飲料メーカーがアメリカ市場で本格的に缶チューハイの販売を開始しました。このメーカーは、果物を瞬間凍結して果実感を強く出し、自然な甘みを活かすことで、アメリカの消費者にアピールしています。また、ニューヨークに研究拠点を開設し、現地の消費者の好みを捉えるためのR&D(研究開発)を強化しています。
5. 消費者志向の変化とRTD市場の未来
RTD市場の成長は、消費者志向の変化を反映しています。健康志向の高まり、さまざまな味の選択肢、手ごろな価格という要因が、消費者の支持を集めています。特に若年層においては、SNS映えする商品や低アルコール・低カロリーの飲料が人気を博しており、今後もRTD市場の成長が期待されます。
日本でも同様の傾向が見られ、ビール市場の縮小やノンアルコール飲料の人気がRTD市場の拡大を後押ししています。酒類メーカーは、消費者のニーズに応じた新たな商品を投入し、競争の激しい市場での地位を確立しようとしています。
RTD市場は、世界的に急成長しており、消費者の健康志向や多様な味の選好に支えられています。アメリカをはじめとする市場での成功は、日本を含む他の市場にも波及しており、今後の成長が期待されます。消費者の好みやトレンドを敏感に捉えた商品開発が、RTD市場での成功の鍵となるでしょう。