マスメディアと政治の関係について


 マスメディアは新聞・雑誌・ラジオ・テレビ・映画など大衆伝達の媒体となるものの総称である。不特定多数の人々に対して、情報を大量生産し、大量伝達する機構およびその伝達システムをいう。

 政治において、マスメディアの影響力が認識されたのは昔からであるが、1960年のアメリカ大統領選挙におけるケネディ対ニクソンのテレビ討論がケネディに勝利をもたらした一因であるとされるなど、年代、事例ともまちまちであるが、新聞、レコード、ラジオ、テレビなど、それぞれの時代の新しいメディアが政治キャンペーンに大きな影響を及ぼしたことがうかがえる。そこで、マスメディアと政治にはどのくらいの関わりがあるのかを考える。

 マスメディアが大きな影響を与えた例として、国鉄、電電公社、専売公社の民営化があげられる。特に40万人の職員を擁する国鉄を経営側と労働組合の反対を押し切り、分割民営化するのは困難であった。1982年朝日新聞は、国鉄で10年以上のカラ出張が行われ、出張手当を長期間受け取っていたことをスクープした。その後、国鉄における様々な不祥事が各紙で報道されるようになった。名古屋駅で運転手が飲酒運転で人身事故を起こし、国鉄への批判は激しさを増した。国鉄のたるんでいる姿を直接映したテレビの影響は特に大きかった。国鉄改革のような大事業は、国民の幅広く強い支持がなければできない。マスメディアは国民に決意を固める上で大きな影響を果たした。

 マスメディアは立法、行政、司法に並ぶ第4権力と呼ばれることがある。そして、政治への影響力は他の権力からも認められており、対立することがある。今年のノーベル平和賞はフィリピンとロシアでの報道に取り組む2人に決まった。選ばれたマリア・レッサ氏とドミトリー・ムラトフ氏はともに、自国の政権を厳しく報じてきた。SNSなどでの虚偽情報による世論操作を暴く、殺害行為を含む公権力の乱用を追及する報道をした。政治と報道の緊張や対立は、世界で見られ、記者やメディア関係者が拘束される、あるいは命を奪われるケースが発生している。民主主義国家において、世論誘導に大きな役割を果たすマスメディアの影響力は大きい。それゆえに、リーダーたちは、マスメディアの影響力を力でコントロールできないかと思うようである。マスメディアを政治的リーダーが押さえる、フェイクニュースであると否定するというのは、インターネット時代の新たな動きであるように思える。

 不都合な報道を封じる社会に、健全な民主主義は困難であり、マスメディアが権力におもねるようになるというのも、民主主義の危機につながる。アラブの春では、マスメディアとは異なる個人発信の新たなメディアによって、政治変革がなされた。マスメディアは電波の制限や紙面の制限によって、それを制御する力と権限を持つ者が存在しており、力を持っていた。インターネットを中心としたメディアは、他局分散化がすすむようになった。米国大統領が個人と同じ土俵でTwitterをするようになったのである。今までのマスメディアの政治に対する影響力はインターネットメディアになれない人がいる限り一定を維持するだろうが、その後のメディアの政治に対する影響力は、分散が進むと考える。

参考文献

北山 俊哉 (著), 真渕 勝 (著), 久米 郁男 (著)『はじめて出会う政治学―構造改革の向こうに』2009、‎ 有斐閣


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