
2024年12月に従来の健康保険証の新規発行が停止されて以降、「マイナ保険証」への本格的な移行が始まった。しかし、移行後半年が経過した現在も、マイナ保険証の利用率は低迷し、有効期限切れによるトラブルが急増している。医療現場では、こうした混乱が深刻化している。
マイナ保険証移行後の現状
従来の保険証は有効期限まで使用できるが、新規発行は停止された。多くの国民がマイナンバーカードを保有しており、そのうち約85%がマイナ保険証を登録しているものの、実際の利用率は2025年3月時点で27.26%と依然低水準で推移している。
有効期限切れトラブルの実態
全国保険医団体連合会(保団連)の調査によれば、2024年2~4月におけるマイナ保険証の有効期限切れトラブルは31%に達し、2023年8~9月の前回調査(14.1%)から2倍以上に増加した。背景には、2025年にマイナンバーカードの本体および電子証明書の大量更新が集中する「2025年問題」がある。2025年度には約2800万人が有効期限切れの対象となり、2024年度の約3倍となる見込みである。
具体的には、有効期限を把握していない高齢者が受診できずに医療機関で足止めを受けるケースや、更新手続きのために再来院を余儀なくされる事例が各地で報告されている。
『資格情報のお知らせ』と『資格確認書』の混同
「資格情報のお知らせ」はマイナ保険証とともに交付され、資格内容が記載されているが、これだけでは受診できない。しかし、現場では「資格情報のお知らせ」を保険証と誤認するケースが続発しており、患者や医療機関の混乱の要因となっている。保団連や現場の医師からも「用語や運用が周知されていない」「受付で混乱が生じている」との指摘が相次ぐ。
75歳以上への『資格確認書』一斉配布をめぐる対応
厚生労働省は、2024年4月に75歳以上の高齢者全員へ「資格確認書」を配布する方針を決定した。渋谷区や世田谷区など一部自治体では、マイナ保険証の有無にかかわらず、国民健康保険加入者全員に一斉配布する独自の取り組みを始めている。これにより窓口での混乱軽減が期待される一方、厚労省は「マイナ保険証を持たない方への配布が国の基本方針」として自治体の動きとの整合性を確認している段階である。
デジタル化と国民皆保険制度のバランス
中央大学の宮下教授は、「保険診療が受けられることが大前提であり、そのためのデジタル化である」とし、一斉配布の自治体判断を合理的な措置と評価する。今後、国と自治体、現場それぞれの方針調整と周知徹底が不可欠である。