タスク中心学習について


1. 初めに

 文部科学省は、外国語教育は、言語活動を通したコミュニケーションそして生徒を中心とした授業展開を行うことを重視するようにと提案している。さらに、英語活動に自信がないことが、現在日本人が英語活動や世界との関わりに非積極的である状況を生み出していると指摘し、生徒が主体的に英語を使いコミュニケーションをとれるような、授業を展開するように求めている。[1] また、指定教科書の著者である白井 恭弘は、「英語は言語であり、世界の人々とつながる重要なコミュニケーションの道具である。……インターネットの発達や、経済の相互依存により、全ての日本人が英語で外国の人とコミュニケーションをとれる、またとるべき時代が来ている」[2]と指摘している。

 このような状況において、日本の英語教育・英語授業改善に必要なことは、アウトプットの充実、特に、日常のコミュニケーションや活動と結びついたた言語活動の充実であると考える。そこで、注目したいのは「タスク中心学習(task-based learning : TBL)に基づいた授業の充実」である。

2-1. タスク中心学習とは

 タスク中心学習は、文法理解を重視した伝統的な外国語教授法を批判し、実践的なコミュニケーション能力の習得を目指すアプローチとして生まれた。タスクとは「求められていることを完了されるために、学習者に外国語を使用することを要求活動」と定義される。タスク中心学習(TBL)では、学習者に学ぶべき言語構造ではなく、解決しなくてはならに課題や完了すべきタスクが与えられる。具体的には、N. Prabhu(1987)はインド南部の自分の生徒に「列車の時刻表の情報を見つける」というタスクをさせた。生徒はタスクをやり遂げるまで、英語で質問したり答えたりすることにより現在形を学習した。

2-2. タスク中心学習の長所

 長所は、第一に、学習者にとって楽しいことである。さらに、第二言語コミュニケーションにおけるメッセージの伝達を重視し、教師と児童生徒および児童生徒同士の第二言語によるやり取りと積極的に取り入れている点も長所である。これは、現在必要とされる、国際的な対人コミュニケーション力を向上させることにつながると考えられる。他には、タスクに参加することにより、対話者間に多くの「意味交渉」(negotiation of meaning)の機会が発生する。具体的には、相手の言った事が分からなかった事を聞き返す”What did you say?”などの「明確化要求」や自分が言った事を相手が正しく理解しているか確かめる”Did you get that?”などの「理解度チェック」などが「意味交渉」である。このような機会によって、学習者は中間言語を検証・修正し、言語知識の「内在化」が促されることが期待される。

2-3. タスク中心学習の短所

 短所は、第一に、タスクそのものに時間が取られ、言語学習に振り当てられる時間が減ることである。次に、生徒が誤った発話をしていても、誤りに気づかせるフィードバックがなされず、そのまま、誤った表現を覚えてしまうことになりかねないという短所がある。これに関連して、複雑さが増すに従い正確性が低下することも挙げられる。複雑な文構成が必要なとなる内容を扱うと生徒はンプルな構造の文を使い続けたり、間違いを多く含んだ英語を使い続けたりする可能性があるのである。このトレードオフの関係は、流暢さと言語形式の正確さも同様の短所として存在する。流暢に話そうとすると言語形式が疎かになり、間違い多く含む発話になったり、文が完成していなかったりするのである。

2-4. タスク中心学習の短所を減らす授業をするために

 タスク中心学習の短所から、タスクにおいて文法や表現について知らないまま、タスクに取り組むことは不可能であると考える。そこで、タスクに取り組む前に、英語検定教科書の題材内容を重視した、内容中心授業を行い、その中で文法・語彙の習得をきちんと指導する必要がある。また、タスクに取り組むときに、生徒に十分な考える時間と発話するためのリハーサル時間を提供することによって、短所である、流暢さと言語形式の正確性や複雑さと正確性などトレードオフの関係が改善される。

3. 結論

 2017年(H.29)、2018年(H.30)に告示された学習指導要領においては学力の三要素は「知識及び技能」「思考力・判断力・表現力等」「学びに向か力、人間性等」とした。その解説において、「知識及び技能」については「何を理解しているか何ができるか」、「思考力・判断力・表現力等」については「理解していること・できることをどう使うか」、「学びに向かう力、人間性等」は「どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか」とまとめられている。小学校から高校まで、「アクティブ・ラーニング」(主体的・対話的で深い学び)の導入することが求められ、教員の教え込みではなく、児童生徒同士の学び合い、教え合いを授業で増やそうとする試みがなされている。「何を学ぶか」より、「何ができるようになるか」「どのように学ぶか」に力点を置く学力育成が求められている。特に、「何ができるようになるか」を重視した学習がタスク中心学習であると考える。生徒がタスクの完了などの達成感を感じタスクでやったことは実用的であることに気づくと生徒は主体的な学習者となるのではと期待できる。

参考文献

岡田圭子, ブレンダ・ハヤシ, 嶋林昭治, 江原美明 (2015)『基礎から学ぶ英語科教育法』松柏社

酒井 英樹, 廣森 友, 吉田 達弘(2018)『「学ぶ・教える・考える」ための実践的英語科教育法』大修館書店

白井 恭弘 (2012)『英語教師のための第二言語習得論入門』大修館書店

廣森 友人 (2015)『英語学習のメカニズム –第二言語習得研究にもとづく効果的な勉強法』大修館書店

村野井 仁 (2006)『第二言語習得研究から見た効果的な英語学習法・指導法』大修館書店


[1] 文部科学省「第1弾【日本の外国語教育はこう変わる!】

吉田研作 上智大学教授×金城太一 外国語教育推進室長(対談方式)」<https://youtu.be/ZTx9qC80nIA>

[2] 白井 恭弘 (2012)『英語教師のための第二言語習得論入門』大修館書店, p.71


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