キャッシュレス社会と仮想通貨
最初に、「お金とは何か」という根源的問題を考える必要がある。お金は皆がお金だと思っているからお金である。つまり「共同幻想」として存在しているものである。売買において、双方がお金だと認める「同義反復」(トートロジー)であることがお金の本質である。
次に、お金の歴史を知るために貨幣の誕生までの歴史をたどる。お金がない時代、物々交換をするためには条件に合う人が出会う場が必要である。その場として「市場」が発生した。物々交換できる人を探すには労力がかかる。そのため、あらかじめ「皆が欲しがる物」に交換しておく方と効率が良いことに気づく。そして、希少で持ち運べる金、銀、銅などの硬貨が作られるようになり「お金」ができた。
今度は硬貨を保存管理する必要が生じるようになった。「両替商」が「お金」の保存管理をするようになった。その預り証(紙)が「お金」を持っていることの証明となり、この紙が取引されるようになった「紙幣」となった。この金と交換できる紙幣を「兌換紙幣」と呼ばれる。しかし、1942年経済の発展に伴い、金の保有以上のお金が必要となった、政府は日本銀行が保有している金以上のお札を発呼できるようにした。銀行の保証と信用と法律によって、金の裏付けのない、紙が「不換紙幣」として、価値を持つようになった。
現在、お金をめぐる状況は、キャッシュレス化社会化が世界中で進行中である。紙幣を使用せずにキャッシュカード、携帯端末のQRコード読み取り、非接触式ICカード、などによって瞬時にお金が移動することができるようになった。
日本においては経済産業省を中心にキャッシュレス社会化を推進しているが、紙幣の機能とATMなどの紙幣を媒介としたシステムが優れているためそのキャッシュレス化の必要性が迫っておらず、現金主義が続いている。しかし、新興国では、現在の紙幣システムに問題があることが多い、そのため、最先端技術が一挙に普及することがある。これを「飛ぶカエル」(リープフロッグ)現象と呼ぶ。
ここまで、キャッシュレス化など技術進歩はあっても、使われるお金は政府や法が価値を保証した法定通貨であった。お金の本質は「共同幻想」である。皆がお金と認めればお金になるのである。これを再認識させられる通貨である「仮想通貨」が登場した。
ブロックチェーン技術が「仮想通貨」を支える技術である。全通貨の取引記録をブロック化し、定期的にサーバーやコンピュータが共有更新(チェーン化)することによって、中心的な組織が無くとも明白な取引が可能となっている。全員がお金のやり取りを監視する仕組みによって、価値を保証しているのである。
仮想通貨は人類の通貨の歴史を凝縮して経験しているような激変の中にある。お金の本質を見失うことなく、上手に付き合うことが求められている。
内容について自分の考えを論じる
私は「仮想通貨」について考えを論じたいと思う。
「仮想通貨」といえば、メディアで取り上げられるのは「億り人」という仮想通貨の売買によって、1億円以上の利益を出した人や、大学や街なかにおいて仮想通貨の勧誘が行われ、大学はその投資詐欺対策に追われている。その本質的な便利さや技術などよりは、それに伴う人々の関心を呼びそうな事柄に注目が集まっている状況である。
そこで、私は「仮想通貨」の可能性について、比較的中立の立場であると考えられる、新聞や各事典などを参考に、記述する。
仮想通貨とは「特定の国家による価値の保証のない通貨」である。おもにインターネット上で「お金」のようにやりとりされ、専門取引所などで円、ドル、ユーロ、人民元などの法定通貨と交換することで入手でき、一部の商品やサービスの決済に利用できる。紙幣や硬貨のような目に見える形では存在せず、電子データとして存在し、不正防止のために暗号技術を用い、ネット上の複数コンピュータで記録を共有・相互監視するブロックチェーンで管理されている。このため仮想通貨は暗号通貨とよばれる。
利点としては、中央銀行や金融機関を経由せずにやりとりされるため、海外などへの送金や決済時の手数料が安く済む、送金・決済時間を大幅に短縮できる。利用者の信用によってのみ価値が保証されており、国や中央銀行の政策の影響を受けにくい。そのため金融危機時に資金の逃避先となる。ネット上での国境を越えたやりとりが容易で、取引の匿名性も高い。
これらの利点がそのまま価格の不安定性、国家による取締が難しいなど欠点となるのであるが、今回は「利点」を考えるために割愛する。
利点を見ると、自国政府のお金に信頼を置けない国の人々や国家を越えて取引が必要とされる人にとっては、非常に優れたシステムである。自国の人々と共同幻想を築けないのであれば全世界の人々とインターネットを通じて、共同幻想を構築すれば良いという考えには理由は通る。
問題は、世界中の人々と人は共同幻想を作ることができるのかということである。「宇宙船地球号」というのは環境問題において、地球を、限られた資源しかもたない宇宙船にたとえ環境学・経済学などで用いられる概念であるが、環境問題の取組においても全世界の人々が足並みをそろえることはままならない。人々が、自由なお金の移動と商取引という、大きな利点を享受するためには、技術を悪用できないような対策やシステムの構築が必要である。仮想通貨の信用失墜による共同幻想の崩壊が及ぼす影響は、ここまで世界中に広まると大きく危険ではある。近年では、中央銀行による暗号通貨発行が議論され始めるなど仮想通貨が法定通貨となるような、状況も在り得るかもしれない[1]。私たちが利点を享受するために必要な努力が続けられることを期待したい。
参考文献
池上 彰 (2019)『おとなの教養 2―私たちはいま、どこにいるのか?』NHK出版
『現代用語の基礎知識』
『日本大百科全書』
「朝日新聞」
[1]「中銀デジタル通貨、検討へ 骨太方針に初めて明記」朝日新聞2020年7月16日 朝刊1経済