「不登校」と「長期欠席」の関係性
学校基本調査における「不登校」の定義は、前年度に年間30日以上欠席した児童生徒を長期欠席者数として集計された中で長期欠席理由の1つである。なお、長期欠席者の理由は「病気」「経済的理由」「不登校」「その他」の4つのいずれかに分類し調査票に記入するようになっている。この記入上の注意には、不登校は何らかの心理的、情緒的、身体的あるいは社会的要因・背景により、登校しないあるいは、登校したくともできない状況にある者とされる。
長期欠席に占める「不登校」の割合は、都道府県によって大きく異なる。長期欠席の理由を病気か不登校かを見極めることは大変難しい。理由の分類は恣意的になりがちであるため、日数だけでカウントされる長期欠席者数の方が信頼度は高い。平成27年度の小・中学校の長期欠席者数全体は194,898人であるが、マスコミは不登校数を報じることはあっても、この数値を報じては来なかった。
長期欠席扱いにならないケースもある。病弱、発育不完全その他やむを得ない事由のため就学が困難とされる子どもは就学免除や就学猶予の対象となる。2016(平成28)年度学校基本調査では学齢児童生徒の就学免除者は2595名、就学猶予者は1132名、合計3727名であった。日本に住んでいる外国籍の子どものうち、学校に行かないでいる子どもは学校に行かなくても欠席にはならない。なお、外国籍の子どもも公立学校への就学を希望する場合、受け入れられ日本人児童生徒と同様に取り扱うことになっている。公立学校等または外国人学校等にも就学していない者を「不就学」とした。2019(令和元)年、外国人の子供の就学状況等調査によると不就学は1000名であった。
不登校・長期欠席の歴史と地域比較
長期欠席は「不良化の前兆」とされてきた。戦後の混乱期には、長期欠席は社会問題化していた。当時の貧しい家庭では、子どもは不可欠な労働力であり、児童労働と就学義務との葛藤状態が生じていた。一方、都市部においては、一部生徒が非行に走ることも問題になっていた。
学校恐怖、登校拒否という言葉が表すように、学校に行かないことが、神経症的病状であると認識がなされてきた。英国、米国では1930年代から長期欠席者の中に、倦怠児とは違い、神経症的症状を持つ者がいると指摘され、「学校恐怖症」と名付けられた。この流れに日本の文部省は1967年から学校基本調査の長期欠席における欠席理由の1つに「学校ぎらい」を採用した。1979年に、養護学校が義務化され、重度障害、重複障害の人も通学するケースが増えた。このことにより、80年代以降は、不登校・長期欠席の議論は登校拒否が中心となった。
「誰にでも起こりうる問題」「学校問題」「心の問題」になる。文部省は登校拒否問題への対応のため、1989年に学校不適応対策調査研究協力者会議を設立した。この会議の報告書で、登校拒否が児童生徒本人の性格傾向などによらず、誰にでも起こりうる問題であるとし画期的な報告であった。
英国や米国における長期欠席問題は非行との関連で捉えられてきた傾向がある、英国では、長期欠席問題に関して、persistent absentees (常習的欠席者)、persistent truancy (常習的怠学)と表現され、常習的欠席者は学力が低いこと、怠学がアルコールやドラックなどとともに不適切・非社会的行動であるとされている。米国においても、英国と似た論調であり、怠学が非行や社会的孤立、学業不振、中退などの問題を引き起こす危険要因であると説明されている。
日本の議論と比較すると、英国や米国では、学校に行かないことは非行に走る恐れがあり、社会的に脱落しかねないという前提仮説に基づいて、対応策が検討されている。これに対して日本では、学校に行かないことは不登校の問題とされており、心の居場所づくりやどう登校刺激を与えるかの議論がなされている。
子どもへの支援
文部科学省の「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に対する調査」において、不登校状態が継続している理由には「不安などの情緒的混乱」が最も多い、他の理由も、「無気力」「いじめを除く他の児童生徒との関係」「あそび・非行」なども高い状態にある。
不登校の理由は様々であり、学校だけでの対応が困難である。文部科学省は2003年度からスクーリング・サポート・ネットワーク事業を開始した。この事業は不登校児童生徒へより一層きめ細かい支援を行うために、学校・家庭・関係機関が連携した効果的なネットワーク構築や引きこもりがちな不登校児童生徒やその保護者に対応するため訪問指導員制度の導入を図り、地域ぐるみでサポートシステムの整備を目指すものである。
学校によっては適応指導教室を開設し、不登校の子どもたちの居場所を用意している。スクールカウンセラーを配置するなどしている学校もある。しかし、学校と近隣のフリースクールや民間の支援機関や公的関連機関との連携は図れていない。各機関は自身が持つ情報内でしか、児童生徒とその保護者に対応できない、不登校をめぐる問題が複雑である以上、1つの機関では解決しない場合がある。各機関の情報共有や連携を促す、連携を促進する中心人物や組織づくりが必要であると考える。その中心人物を教師が担うとすれば、中心的に子どもへの支援を行い、適切に各機関との連携情報共有を行い、子どもを包括的に支援するための手助けをすべきである。
参考文献
刈谷剛彦・濱名陽子 他 (2010)『教育の社会学』有斐閣アルマ
2016(平成28)年度「学校基本調査」
2019(令和元)年「外国人の子供の就学状況等調査」